「部屋が整うと、心が整う。いつもみんなが笑顔で暮らす世の中になってほしい」

と話すのは整理収納アドバイザー育成講師の大熊千賀さん。

整理収納アドバイザー&心地よい住まいづくりのプロ/大熊 千賀
@kurashi_style
from instagram

個人のお客様のみならず、企業からの信頼も厚く、オファーが絶えない整理収納アドバイザーです。コロナ禍となってからは、オンラインによる整理収納アドバイザーの育成をスタートさせ、これまでのノウハウと豊富な経験を惜しみなく伝えています。

そんな大熊さんのキーワードは「笑顔収納」。ご自身もいつも笑顔なのが印象的です。

今回は、整理収納アドバイザーのなかで知らない人はいないのではないか?と思うほど活躍され、多くの人に笑顔を届けている大熊千賀さんにお話を伺いました。

専業主婦からの転身、整理収納アドバイザーとしての働き方、片付けに対する考え方などは、整理収納アドバイザーだけでなく、プロを目指す方や片付けに関心がある方にも参考になるかと思います。

(インタビュアー:藤野こと)

大熊千賀さんはこんな人

16年間の専業主婦時代を経て、2009年に整理収納アドバイザーになる。全国に18万人以上いる整理収納アドバイザー2級以上の有資格者のなかで、35名だけが持つ1級の認定講師として活動中(2023年7月現在)。「暮らしStyle」を立ち上げ、スタッフとともに整理収納サポート、社員研修、リフォーム・新築の収納監修などを手がける。年間400回のセミナー・講演会をおこなったこともあり、講師としての人気も高い。海外でもセミナーを開催した。

また、整理収納アドバイザーの育成にも力を入れており、オンラインによる「本気講座」では多くの整理収納アドバイザーを育てた実績を持つ。著書に『笑顔で片づく整理術』がある。

主婦業・母業と整理収納の仕事を両立させるために心がけていたこと

―― ずっと専業主婦で、整理収納アドバイザーとしての起業はゼロからの出発ですよね。起業した当初は、3人のお子さんもまだ小さかったと思うのですが、仕事と家事・育児をどのように両立されていたのでしょうか?

整理収納アドバイザーの仕事を始めたのは、一番上の子が中学生、下の2人が小学生のときです。

当時は整理収納サポートに行くことが多かったのですが、私のお客様はお子さんがいらっしゃる方がほとんどでした。ですから、子どもの具合が悪くなったら延期になることはお互いにあるかもしれない。そのことを理解したうえで、ご依頼いただいていました。

子どものいないお客様の場合も同じで、仕事を引き受ける前に延期の可能性を伝えておくことが大切ですね。

私の場合、両親も義両親も地方に住んでいるので、身内には頼れません。そのため、仕事は子どもが学校に行っている時間帯しか引き受けていませんでした。

子どもたちを送り出してから仕事に出て、帰ってきたら「おかえりなさい」と迎える。そんな生活でしたから、子どもたちは、私が外で忙しく仕事をしていることをわかっていなかったと思います。

―― 最初のうちは仕事をセーブしていたんですね。お客様にも理解していただいて、無理のない働き方をされていた話は、子どもがいてどう活動したらいいのかわからない整理収納アドバイザーの参考になると思います。

では、そのリミッターを外したのはいつ頃ですか?

一番下の子が中学に入ってからです。子どもたちの性格もあると思いますが、幸いなことに3人とも学校が大好きで、部活もやっていたので帰りも遅かったんです。だから、仕事の時間が長くなっても、私のほうが先に帰宅していました。

実は、娘にこんなことを聞いてみたことがあります。

「お母さんは、ずっと専業主婦のままだったら、帰りが遅い子どもたちを心配しながら家で待って、帰ってきたら『遅い!』なんて文句を言ってたと思うの。そんな自分が嫌だし、子どもたちもモヤモヤしていただろうね。そう思ったことが、仕事に打ち込むキッカケになったのよね。お母さんは正解だったと思っているけど、あなたは当時どう感じていたの?」

娘は

「子どもを家で待っているだけのお母さんじゃなくてよかったと思う」

と答えました。

いつもイライラしている母親になってしまったら、子どもも自分も不幸です。ですから、家庭のことにばかり目を向けるのをやめて徐々に仕事を増やしていった、あの頃の自分を褒めたいと思います。

―― 整理収納アドバイザーの資格を取るまでは、簡単とは言いませんが頑張れば取得できるものです。でも、いざ活動しようと考えると、何から始めたらいいのかわからない。私自身もそうでした。

お話を聞いて、限られた時間でできる仕事を「選ぶ」ことが大事なんだなと思いました。そして、子どもの成長に合わせて仕事を増やしていく。

家族にとってもご自身にとっても幸せな働き方を選択されてきたんですね。

そうですね。整理収納アドバイザーの仕事は、整理収納サポートの現場に行って作業をするだけではありません。講師としてもインスタグラマーやライターとしても活動できます。オンラインが普及してきて、活躍の場がさらに広がっていますよね。私自身も、コロナ禍になってからオンラインでの仕事に切り替えていきました。

整理収納アドバイザーは、そのとき、そのときで自分が大切にしたいことの優先順位をつけて選んだ働き方ができます。しかも、選んだ経験さえも、いずれお客様のお役に立てるのが、この仕事の魅力のひとつだと思います。

―― そういえば、こんまり(近藤麻理恵)さんが「子どもが小さいうちは家が散らかっていても仕方がない」といったような発信が話題になりましたよね。これも優先順位をつけた結果なのかなと思いますが、あの発信をどう感じましたか?

こんまりさんのような影響力のある人が、何もかも完ぺきに片付いている状況を手放し、それを公表したことに大きな拍手を送りたい気持ちでいっぱいです。

家事も育児も頑張りすぎて苦しんできた人は、ほっとされたと思います。

子どもの成長とともに、こんまりさんの経験をまた発信して若い世代のエネルギーになっていくといいですね。

リピートされる整理収納アドバイザーになる秘訣

―― 著書『笑顔で片づく整理術』には、整理収納アドバイザーになったきっかけや「笑顔収納®️」の定義と考え方などが書かれています。そのなかの一つに、主婦としての経験が仕事に活かされているとありました。でも、それだけでは仕事はできないと思うのですが…

主婦の経験以外に活躍できた秘訣があったら教えてください。

「選んでくれてありがとう」という感謝の気持ちでしょうか。私を選んでくださったことに対する感謝として、しっかりとお礼をしなければならない。だから、私には、依頼されたことを完ぺきにやるだけではなく、それ以上にもっと喜んでいただきたいという強い気持ちがあります。それがお客様へのサプライズやプラスアルファとなり、「笑顔収納」につながっていきました。

自分で言うのも気が引けますが、お客様ひとりひとりにもっと喜んでもらえるにはどうしたらいいのかをイメージする力が大きかったんだと思います。

結果として、お客様がリピートしてくださったり、ほかの人を紹介してくださったりして、ご縁がつながり、活動の場が広がっていきました。

―― 整理収納サポートでもセミナーや企業研修でも、ただ完ぺきに仕事をこなすだけでは次につながらない。いまの活躍は、お客様にさらに満足していただけるような発想力と提案力があってこそだったんですね。

「笑顔収納」は、お客様への愛と感謝から発展していったと考えていいですか?

はい、そうです。

私が整理収納に出合ったときは、そんなにお片付けが好きなわけではありませんでした。しかし、わが家に整理収納を取り入れてから、自分の心が穏やかになり、家族とのコミュニケーションが深まったのです。

そして、人にもモノにも感謝することを伝えていくなかで、その人の考え方や生き方が変化していく様子を目の当たりにしました。

イヤな思いをしたり、人を否定したり、世の中にはマイナスな感情がたくさんあります。そのなかで「家を整える」ことが、気持ちをプラスに切り替えてくれることを確信しました。

これを「笑顔収納」で伝えていきたい!私の天職だと思っています。

人前で喋るのが苦手でも、年間400回ものセミナーをこなせた理由

―― コロナ禍に入る前に、年間で400回以上のセミナーをリアルでおこなったことがあるそうですね。つまり1日1〜2回セミナーをやっていた計算になります。

そうなりますね。

ただ、整理収納サポートにも行っていたので、毎日セミナーをやっていたわけではありません。全国を飛び回って1日2〜3回のセミナーをやっていくうちに、トータルで400回を超えていた感じです。

―― 私も何度かセミナーや講座に参加したことがありますが、講師のスイッチが入った瞬間を見ると「女優だな」とよく思います。やはり女優業をされていた経験が大きいのでしょうか?

発声や舞台度胸を鍛えるという意味では、女優をしていた経験がとても活かされていると思います。

でも、セミナーの前はすごく緊張しているし、人前で話すのも苦手なんです。

―― 本当ですか? そんなふうには見えませんが…

本当です。人前に出るのが好きとか喋りが上手とか、そういうタイプとは真逆でした。

小学生のとき、母に連れられて演劇を観に行きました。とても感動したのを覚えています。そして、この小さな舞台で人に笑いと感動を与えられるって素敵だなと思いました。人前に出たいという憧れもあったと思います。

―― 女優をめざしたきっかけは何でしたか?

女優さんが、人前で話すのは苦手だからこそ人前で表現できるようになるために女優になったという話をインタビューで聞いたんですよ。それなら、私にもできるかもしれないと思いました。

それで高校生になったときに、有名な女優さんが運営している夜間部の劇団の養成所に入りました。運良くすぐにメインキャストとして舞台に抜擢されて、人に感動を与える舞台に立つという夢が叶ってしまったんです。

春・夏・冬の学校休みと被っていたので、地方公演にも長期で出演させていただきました。

その後、演劇の道に進もうと決意して上京し、文学座養成所に入りました。この時期に訓練した腹式呼吸での話し方や感情移入が現在の講師業に活かされています。

―― 舞台慣れしていても、セミナーで緊張するものですか?

緊張しますよ。いまでこそマシになりましたが、セミナーの前も震えるくらい緊張しているんです。

だから、「私は整理収納のすごい専門家!皆さんの憧れの講師!」と自分に言い聞かせて、舞台袖から舞台に出る気持ちで登壇しています。それが講師のスイッチが入る瞬間です。

―― 講座やセミナーでは参加者からの急な質問にもいつも笑顔で答えていらっしゃいますが、過去に答えられなかった経験はありますか?

困ったことはありますよ、特に最初の頃は。でも、舞台での対応力と同じで、整理収納の先生の役になりきって慌てずに対応していました。

できる限り自分ごとに置き換えて考えると、答えが見えることがあります。これも、役になりきる訓練をしてきたおかげもありますし、お客様の立場になって物事を考えることが得意なのかもしれません。役者であったこと、専業主婦だったこと、これらの過去の経験が今の自分に役立っています。

また、わからないことは「勉強不足なので、次回までに調べておきます」と素直にお伝えすることも大切だと思います。間違った情報を話してしまうわけにはいきませんから。

整理収納において役立つのはモノよりも人を見ること

―― 整理収納アドバイザーとしてアンテナを張っていることはありますか?

たとえば収納グッズのお店に行ったり、インテリアショップをぶらぶらしたりなど。

整理収納アドバイザーになったばかりの頃は、ニトリや無印、IKEAにはよく行っていましたね。楽しい場所ですし。

最近は、収納グッズを見るよりも、人を観察することを大切にしています。電車に乗っているときに周囲の人の会話を聞きながら、困っていることや知りたいことは何かを探しているんです。世の中にはいろんな人がいて、さまざまな考え方があることを知るための絶好の機会だと思っています。

というのも、整理収納アドバイザーの仕事は、片付けることだけが目的ではないからです。整理収納は、仕事、暮らし、家族・人間関係などいろいろなことが絡み合っています。

だからお客様の役に立ちそうなことなら、何にでもアンテナを張っている感じですね。整理収納アドバイザーや子どもたちからの相談も仕事のプラスになっています。

―― では、いろんな人がいるなかで、今のミニマリストという言葉や風潮をどう思われていますか?

私にはできないことだから尊敬します。

ただ、ミニマリストといっても、自分の好きなモノはちゃんと持つタイプもいれば、必要最低限のモノしか持たないタイプもいますよね。一度ミニマリストとして生活してみたけれども、やっぱりモノを持つようになった人もいらっしゃるようです。

私はミニマリストを経験しているわけではないので、ミニマリストはこうあるべき!と断言はできません。

ただ、ミニマルな暮らしを経験した上でミニマリストとして生きていく選択をするのはいいのですが、ミニマリストという言葉につられてミニマリストになるのは楽しくないんじゃないかなと思っています。

―― もし、お客様で「ミニマリストになりたいんです」という方がいたら、どんなアドバイスを送ったり、サポートしたりしますか?

まずはなぜミニマリストになりたいのか、そこを詳しくお聞きしたいと思います。お客様の考えるミニマリストはどんなものなのか、どういうことに憧れてミニマリストになりたいと思っているのかを知らなければ始まりません。

私はミニマリストではないけれども、お客様の目標に向かって伴走することはできます。

だから、お客様にとってのミニマリスト像を一緒に深めていって、モノの持ち方を決めていく形をとります。

ミニマリストになるとしても、そのなかで自分らしいスタイルを一緒に探していきましょうと伝えたいですね。

―― 最後に、片付けやミニマリスト界隈で気になっている人はいますか?

ごめんなさい。特定の人は思い浮かびませんね。

整理収納、片付けの仕事をする人といっても、いろんな特技や個性を持っています。

それぞれが自分軸を持ち、ご自身の得意・苦手や過去の経験を活かし、自分らしく活動してほしい!そう思っています。

私の考え方の軸は「みんな違って、みんなイイ!」です。違いがあるからこそ、自分にしかできないことがあり、そんなあなたを求めている人がきっといるはず。

私もさらに「笑顔で暮らす世界」をつくるために、私ができることを探求し、活動していきたいと思っています。

筆者後記

有名な方であるだけに、一見すると近寄りがたいような印象を受ける大熊千賀さん。話してみると非常に親しみやすいお人柄です。

整理収納アドバイザーは、専業主婦の経験が活かせる仕事だとつねづねおっしゃっていますが、女優としての経験も大いに活かされていることが今回のインタビューでわかりました。

現在は整理収納アドバイザーの育成に力を入れ、ご自身のノウハウや経験を出し惜しみすることなく後進に伝えています。「笑顔収納®️」の考え方やメソッドを知りたい方は、著書『笑顔で片づく整理術』をぜひ読んでみてください。

※前回インタビューした「ぴょりさん」の記事はこちら

※インタビュー実施:2023年7月

※こちらの記事の内容は原稿作成時のものです。
最新の情報と一部異なる場合がありますのでご了承ください。

この記事を書いた人